絹本縦五六×横三六㎝
以下の翻刻・訓読・現代語訳・語注・コメントは村井道明氏のご教示による。

豊肌弱骨好容光 管領東風長擅場
蜀樹心甘來作婢 洛花顔厚嘗稱王
帳圍嬌影春雲暖 燭照殘糚晴雪香
一朶如教放翁見 碧雞當悔抂顚狂
山陽外史
訓読
豊肌弱骨にして容光好し、
東風を管領して長く場を擅にす。
蜀樹 心甘んじて來たりて婢と作り、
洛花 顔厚くして嘗て王と稱す。
帳は嬌影を圍みて春雲暖かく、
燭は殘粧を照らして晴雪香し。
一朶 教へて放翁に見しめば、
碧雞當に悔ゆべし 抂顚狂を。
現代語訳
肌はふっくらと骨は華奢で、なんとも美しい姿かたち。春風をあやつり、長くこの世の花の座をひとり占めにしてきた。
蜀の名木に仕えることになっても、その身はよろこんで侍女となり、洛陽の名花たちにまじっても、その顔立ちは抜きんでて王者と称えられた。
帳の中には愛らしい影が揺れ、春の雲のようなぬくもりが満ち、灯火に照らされるうす化粧には、晴れた日の雪のような香りがただよう。
もしこの一輪を、あの放翁に見せることができたなら、碧鶏の城の人々は、あのときの狂おしいまでの取り乱しを、きっと悔やんだことだろう。
語注
【豊肌弱骨】ふくよかな肌と華奢な骨格。なまめかしい美人のたとえ。
【管領】思うままに支配する。
【東風】春風。
【放翁】南宋の詩人陸游の号。
【碧雞】雲南の名山・碧鶏山。またその地に擬した人物や勢力蜀の地名。
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矢野夜潮(やの やちょう)。名は正敏。字は仲観。通称は物集女(もずめ)。京都の人。山口素絢の門人で花鳥・人物画を得意とした。文政一一年没、年四七。
メモ
*夜潮 矢野夜潮 天明二年~文政十一年1782-1829 江戸時代後期の画家。


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