
白癡物語 巻之上

白癡物語 巻之上
目録
某の家人に耳をしひたる女におびやかされたる事
某の尼鳴門見にゆきたる事
かいもちひこのむ童の事
某淋病の事
大物上人児をかへして後歌よみたる事
某のひじり童をすかしてかたらふ事
亀の裏方桐ノ政男等江の島にまうづる事
某女のもとにやどりて郭公のなくを聞きたる事
某のずさものまうでの用意したる事

某の娘めしうどに出んとてけむざむにゆく事
某大納言の北方の事
なき女の事
何がしのをんなめみそかをとこにあふ事
附り あるじをすかして小袖などてうぜさせたる事
四国を順礼しける人ともなひたる女をよばひて仏の御罰かうぶりたる事
饅頭を見てめをおもへる人の事
某モミぢ見にいきたる事
某の番匠はしたものをよバひたる事并長歌




















藤の花を見て短冊つけたるしれ人の事
わが里の地福寺といふ寺にいみじき藤あり花のしなび六七尺
ばかりもありてよにめづらしき藤にてありければ花さくほどハ
遠近(をちこち)の人々つどひきてひしめきあひてけり一とせおのれも友
だちとともに此藤みに行て酒うる家にいりてありけるに
いづくのたれにかあらんみめことがらさうぞくなどもいと清らかなるが

きたれりさて藤をミていミじうめでよろこびつゝ是も同
じ家にいりて酒のミなどしけるがやがてその枝にたむざくを
なむむすびつけていにけるされバよみやびこのむ人にはありけりといと
ゆかしくおぼえてたちよりてかのたむざくをミれは
これハこれハとばかり花のよしの山
といふ人のしりたる句をさながら書てありけるにぞ胸つぶれて
あさましくハおぼえし世にハをこの人もあるものかなとて友
だちとゝもに笑ひをりけるにとばかりありてかの人いきまきてかへり
きぬあるじうちミて何をかわすれてはゆき給へるととへばいな
さることにははべらずさきのたんざくにいミじきあやまちしてさ
ふらふままにかくかへりきてさふらふいで硯かし給へとてやがて
筆をとりてかきかへつゝまたかの枝につけぬおのれもをり
??ねむじつゝさきのたびの御句もよのつねにはおぼえ侍らぬを
またいかなるところをか直させ給ひたるいでミせ給へとて立よりて
ミればよしの山といへるを藤の棚とあらためてありけるにぞえ
たへで一どにはとわらひあへりける



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