
静養庵主人手製籸麺其製甚
精其味殊美因賦二絶以賞之
玉杖攤来?秋練?刀随手繅銀
絲搏摩別有仙家法満座香浮三
沸時
甘露軽風入口銷新秋寒光徹骨冷
草将銷姑射神仙糧軽比何曽十
字餅
金杉学生鵬齋草 印
語注
*籸麺(シンメン) 籸の字、大字源には見当たらず。二字目は麺の本字 素麺のことか。
*攤 おさえる ひらく ひろげる わりあてる
*繅 繰の別体字
*銷 とける とかす 衰える へらす
*鵬齋 亀田鵬斎 宝暦二年~文政九年(1752-1826) 江戸時代化政期の書家・儒学者・文人。江戸神田生まれ。
気づき
○「静養庵主人手製の籸麺(素麺のことか)其の製、甚だ精、其の味、殊に美なり。因りて二絶を賦し、之を賞す」という前書き。
亀田鵬斎 詩書
紙本 縦一七・五×横一七・五㎝(刷物)
以下の翻刻・現代語訳・コメントは村井道明氏のご教示による
翻刻
静養庵主人、手製籸麺、其製甚精、
其味殊甘美、因賦二絶、以賞之。
玉杖攤来畳秋練。金刀随手繅銀絲。
搏摩別有仙家法。満座香浮三沸時。
甘露軽風入口銷。新秋寒光徹骨冷。
莫将姑射神仙糧。軽比何曽十字餅。
金杉醉学生鵬齋草。
現代語訳
静養庵の主人が自らこしらえた「籸麺」は、
その作り方がたいへん精巧で、味もひときわまろやかで美味であった。そこで七言絶句を二首作って、その出来ばえをたたえた。
玉のように美しい杖をさっと広げると、薄い秋の絹を幾重にも重ねたように白く澄みわたり、金色の小刀を手際よく動かすと、銀の糸を引くように、するすると細くほぐれていく。こねて練り上げるその手つきには、仙人の家に伝わる特別の秘法があり、湯を三度沸かしたころには、座中いっぱいに芳しい香りが立ちのぼる。
甘露と軽やかな風が体にしみこんで消えるように、口に入れればすっと溶けて、初秋の冷たい月光が骨の髄までしみるほど、ひんやり清らかな気が身を貫く。湯を三度沸かしたころには、座中いっぱいに芳しい香りが立ちのぼる。どうか、姑射山の仙人の食べ物を、ありふれた「十字餅」などと同じように、軽々しく比べたりしないでほしい。
コメント
落款に「金杉醉学生鵬齋」と書いている。
鵬斎は享和元年五〇歳のとき下谷金杉に移り住んだ。寛政の改革による幕府正学となった朱子学以外の学問を排斥する「寛政異学の禁」により、山本北山、冢田大峯、豊島豊洲、市川鶴鳴とともに「異学の五鬼」とされてしまい、千人以上いたといわれる門下生のほとんどを失う。その後、酒に溺れ貧困に窮するも庶民から「金杉の酔先生」と親しまれた。


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